つの

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普通のOL、某企業の総合職として就職し、バリバリキャリアを重ねている、はずだった。5年経っても仕事は殆ど変わらず、満員電車の乗り方だけが上達していった。
ある日、帰宅中の電車の窓に写った自分の顔を見て何か変わった感じがした。
疲れてるんだ。
このときはその程度で気にも止めていなかった。
次の日顔を洗ったときに手に違和感があった。鏡をよくよく見ていると額に小さな突起物があった。大人のにきびか吹き出物か、その程度に思って、ニキビの治療薬を塗って終わった。高校の頃の薬が役に立ったのだ。

日を追うごとにどんどん成長する突起物はまるで角のように伸びてきた。帰りの電車に映る自分に憂鬱だ。
会社でも隠しきれなくなってきたので、一度のこぎりで切ってみた。切っている間は自分ではないように痛みは感じなかった。せめて帰りの電車の窓に映る自分の顔くらい楽しくいたい。
しかし願いはむなしく、またドラマを盛り上げるために朝には角は伸びていた。今度は枝分かれしている。まるで鹿だ。鹿になっちゃうのか。鹿せんべいは食べたくないぞ。
これは隠しきれない枝振りなので会社を休む。電車の窓の私とは暫く会えない。一々気にかけることでもないが。

あれから一ヶ月が経った。彼女の頭には立派な角がある。雄鹿だってなかなかいないくらいだ。私は女なんだが。
それにしても日に日にぼんやりしてくる。頭痛がするとか吐き気がするとか、そういうものも無く只だぼんやりしてくるのだ。
ある日、テラスの、テラスといっても出窓みたいなものだけど。
花に水をやっているときに角がぽろりと落ちる。一緒にあたしもパタリと倒れて気を失った。

気が付くと角はテラス、本当は出窓だがあたしにはテラスなのだ。に根を張りしっかりと立っていた。目の前には真っ白になったあたしが寝ころんでいた。
end

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