走る男

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※推敲、校正をしていないのでいろいろ不具合もあると思うけど、都合のよいほうに察して読んでください。

デパートの地下、食品売場。デパ地下だ。食品売場はどうなったんだ。
俺は追われているらしい。さっきから誰かがつけてきているきがする。誰なんだ、何故なんだ。
キムチ売場で試食していると売り子が買えとしつこい。熟成された脅迫だ。それが片言の日本語でパワーは半減だ。
試食を片づけたら奴の影が動いた。
タイミングを見計らってキムチ売場から静かに動く、片言で本当によかった。
奴が本格的にこっちに向かってきた。やっぱり俺は追われているんだ。早めに歩き出す俺。ラッキーな事にエスカレーターが空いている。ダッシュだ。空いていても人は乗っているのでその隙を縫っていく。一階に付いたときに軽く振り返ると奴と、と!キムチの売り子がダッシュでつけてきた。
どうなってんだ!俺は食い逃げではない。
それでも立ち止まらずに走る。何かに引っかかってワゴンの商品が一面にぶちまけられる。それに構わずに走り続けると警備員が追いかけてきた。キムチの売り子も奴もまだついてくる。ついにはデパートを出た。
近くの商店街に向かって走り出す。迷路のように入り組んだ道に入れば撒けるんじゃないかと踏んだのだ。振り返ってみると、追っ手が増えている。中には明らかに野次馬的についてきている奴もいるが、そうではなく本気で追ってきている奴もいる。
相当しんどいがここで立ち止まるわけにはいかない。走るのだ。走っているうちに、いろんな事が走馬燈のように目の前を駆け抜けているような錯覚に陥る。
振り返るとねずみ算的に増えている追う人達。
何故追うのか、何故追われるのか。もう理由は消失していた。
自分の後ろに居る人達はすべて自分を追う人になっていた。世界中に追いかけられているようだ。追われている物理的な事より精神的なプレッシャーがかかる。
しかし、不思議なのは追う人々が全く追いつかないのだ。先頭の人が追いつきそうになると信号が変わったり、間に車が入ったり、とにかく捕まることがないのだ。かといって、捲いたとしても誰かが見つけ、奴ら、もう奴ではなく、奴らである。その奴らが追ってくるのだ。
今度こそ捲いた!と思って公園のトイレを見つけ、用を足した頃に見つけられる。そして走る。日も落ち、最初に追われてから数時間経っても追われているのは変わらない。ちらりと後ろを見ると誰もいない。立ち止まっても追ってくる人はいない。居ないとなると風すら吹かないのはなんなんだ。なんでもいいが。
追っ手は居なくなったのだ。俺に平和がやってきた。

そして次の朝、家を出ると誰かがつけてくる。歩幅を大きくとって、何となくその場から素早く立ち去ろうとすると、同じようについてくる。気がつくと一人増え、二人増え、いつの間にか大量の人々に追われていた。どんな奴らが追ってくるのかは分からないが、とりあえず先頭の人は昨日とは別人だ。昨日も常に先頭は同じ人ではなく、絶えず変わっているようだ。
昨日と同様に自分の後ろにいる人は全てと言っていいほど追う人になり、いつまでも追いつかないのだ。そして日が落ちる頃には、ぱたりと追う人々がいなくなるのだ。まるで太陽が呪いでもかけているようだ。
明日は学校だ、どうなるんだろうか。

明日になった。駅まで数人が静かに追ってくる。電車に乗るときは一応気を使ってくれるみたいだ。朝のラッシュでなんと追う奴らは俺を見失ったようだ。今日こそこのへんてこなやり取りから逃れられると、ほっとして満員電車に乗り込んだつかの間に、この満員電車の隣の車両からうねうねと穏やかに人の波が自分に押し寄せてきた。自分の降りる駅まで待ってくれるようにゆっくりだ。そして駅についてドアが開く、満員なので開いたらダッシュ出来ず、つまずいたりしながら駆け出す。
当然のように人並みが自分に向かってやってくる。今度は一気に人が増え、本当に人波が押し寄せてきた。その波に近くにいる人達が飲み込まれてヨリ大きな波を形成していく。
改札も水が入れ物によって形を変えるように通り抜けていく。って、感心したらダメじゃん、あいつら金払ってないじゃん。あー、改札のバタって人止めるやつも壊してこっちに向かってくる。こうなったら駅員は止めるだろうと思ったら、駅員も人波に飲まれてその一部になってしまった。
ついに学校だ。奴らはどこまでついてくるんだろう。とりあえず学校には来るのだろう。ところが校門直前で人波が、津波が岩に砕かれるようにわらわらと四方へ散っていった。
ほっとして構内を歩いていると、どうも学校内は別部隊が担当するらしく、全く知らない学年の奴らや教師や事務員が追いかけてきた。中には同級生もいるようだ。いい加減バカバカしいが、授業はさぼれるな。教師も追いかけてくるし。
夕方までこの調子は疲れるので学校を出てみた。すると校門をきっかけに追ってくる人波は散り散りになっていくじゃないか。まるで校門が結界にでもなっているようだった。
校門周辺を往復してみると校内と校外、両方から奴らが追ってきた。お互いの集団が俺に近づく事が出来ずに反発しあっていた。大縄跳びから抜け出すようなタイミングで校門から抜け出し、俺は家に帰った。
明日も明後日も同じように奴らは俺を追ってきた。数ヶ月経っても追ってきた。それからまた数ヶ月後、奴らは追ってこなくなった。なぜならば俺の目の前で、別の人を追っているからだ。そして俺もいつの間にか追う奴になっていたが、何故追うのかは、分からないままだった。

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